2章 悪霊の深圳の裏切り3

結果発表まで、二週間弱。彼女は試験の結果を気にする様子もなく通常通り働いた。試験の結果を知るのが怖くて、がむしゃらだったのかも知れない。

そんな日が続き、いよいよ明日が合格発表だ。

彼女は言う「もう受かっていても、落ちていてもどっちでもいいかなって正直思ってる。」

全く正直では無さそうな彼女のそんな言葉を受けながら、「大丈夫だよ。」と精一杯考えつく最善であろう言葉を口にする。

だが僕の心はそれどころでは無い。そんなこと言われても、僕も帯同者だから、落ちていたらそれはそれで考えなければならないし、受かったら受かったで、年金のこと、社会保険のこと。自宅にある車のこと。家賃、医療、住民票のこと。様々なことを試算しなければならないのである。人ごとといえばそうなのかも知れないが、ある意味家族のこと。もはや人ごとでは無いのである。

そして合格発表の日

朝五時半に彼女はアラームで起床する。それに伴い、僕もうっすらと目が覚める。

スマホを触り、少しずつ目が覚めて来たところで思い出す。「今日合格発表や。」

ガバッと布団を開け、発表の形式を確認する。

「今日ってどうやって結果わかるんだっけ?」

「受かっていれば電話がかかって来るって。落ちていたら、メールで来るらしいよ。」彼女はなんの気負いも無い雰囲気を出して言った。どうやら、より人生をかけているのは、僕の方らしい。

朝早いので、もう一眠りしよう。そう考えた僕はベッドにもう一度入り「今日の何時に相手は連絡するのだろう。」と考え始め、目も頭もギンギンに覚めてしまった。

「合格通知する会社が一般の業務なら、九時から十時の間だよな‥」「いや昼時を狙ってかけてくるか。」「いや採用側の時差もあるし、相手のことを考えて、仕事の終わった五時すぎに。」

様々なことを考えすぎて、何も手につかなくなった僕は彼女の通勤を見送った。

ソワソワする僕はとりあえず胃に何か入れにいこうと決断した。

万が一海外に転勤、移住することになったら僕の胃は何を欲するのだろう。

日本食?ラーメン?寿司?牛丼?発想と食生活が貧困な僕のイメージは乏しい。

そんな僕は近くのはま寿司に自転車で向かった。

はま寿司に着くとランチのタイミングを少しずらしたのが功を奏し、比較的空いている。今日は大トロのフェアを行っているらしい。大トロなんて普段は全く口にしない。

寿司といえば江戸前だ。江戸前に決まっている。

江戸前の基本といえば、まずはコハダ(シンコとも言う)そしてひらめ、イカ。まずは淡白なネタから食し、徐々に風味が濃いものに変えていくのが基本だろう。これは僕の大好きな「江戸前の旬」という漫画から得た知識であり、全く僕の感受性は影響していない。

試しに昔、一貫目からウニという暴挙に出たこともあった。

流石に一貫目からウニなどという風味が強いものを食してしまっては、後のネタの味わいを正しく評価できないだろうと。

しかし、結果は「まぁどれをどの順番で、食べても大概うまい。」ということがわかった。大切なのは何かで得た知識ではなく、経験に基づく結果なのである。などと、くだらないことを考えながら、「数量限定なのだから仕方無い。」という言い訳を利用し、大トロを二貫頼む。一皿一貫の皿がベルトコンベアで運ばれてくる。

「これが、大トロ。」

普段目にしない、大トロを前に若干の動揺を見せつつも、大トロに挨拶をする。「君が今日の目玉のキャンペーンでこの店の主役の大トロかい?」

大トロは自信満々に鎮座している。

ええい。食してしまえ。

口の中に入れた大トロは「シャリシャリ」と明らかに口内に氷点下を感じさせ、喉の奥に流れていった。

「ふぅやはり大トロといえどこの程度か。」と余裕を見せる僕に対し、もう一皿の大トロは余裕の表情でこちらを見ている。「一皿目の大トロは四天王の中でも最弱‥」なんてふざけたことを脳内で行っていた時、不意にIPHONEに通知が入った。

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